第3回共創イノベーションセミナーレポート ーシェアリングエコノミーの可能性と釜石での取り組み、実現に向けた「非市場戦略」ー
「地方創生」って今どうなっちゃってるの?
「シェアリングエコノミー」って最近よく聞く言葉だけど、実際どんなもの?
違法性ばかりが報道されている気がするけど大丈夫なの?
首都圏にお住まいのビジネスパーソンのなかには、そんな疑問や興味関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
2017年10月23日(月)、第3回共創イノベーションセミナー「シェアリングエコノミーがもたらす地方と都会/海外の新たな関係の可能性」が行われ、首都圏企業に勤めるビジネスパーソンや個人事業主など、約85名が参加しました。
「共創イノベーションセミナー」は、地元主導・民主導×外部大手企業の連携による新たな地域産業創出モデルの発信を目的とした、RCFとの共催イベントです。
主催者は一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA)。JEBDAは、復興を「元に戻すこと」ではなく「新たな産業を起こすこと」と定義して活動開始し、今年で6年目。岩手県釜石市、宮城県女川町、山元町などにて、首都圏企業の力を借りながら、地域産業を盛り上げる活動を展開しています。
今回の登壇者は、以下の通りです。
【特別基調講演】 髙𣘺(たかはし)淳氏(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 次長) 【特別講演】 藤沢烈氏(一般社団法人RCF 代表理事/新公益連盟 事務局長) 石井重成氏(釜石市オープンシティ推進室長) 【パネル登壇】 モデレーター: 鷹野秀征氏(JEBDA代表理事) パネラー: 藤沢烈氏(RCF代表理事) 石井重成氏(釜石市オープンシティ推進室長) 山本美香氏(Airbnb Japan株式会社 公共政策本部長) 増田典生氏(株式会社日立製作所 CSR担当部長) コメンテーター: 髙𣘺淳氏(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 次長) |
個から始まる、人が主役のシェアリングエコノミーによる地方経済活性化に取り組む岩手県釜石市についての紹介や、地方創生の最新動向、地方でのビジネススタートアップに不可欠な「非市場戦略」に関する講演やパネルディスカッションが行われ、多くの方が熱心にメモを取りながら聞き入っていました。
目次
ここ5年で過疎市町村の11.7%が「社会増」を実現できている
髙𣘺様からは「2020年以降の日本のカタチ〜地方と都会/海外の関係はどう変わるか〜」と題しご講演いただきました。地方創生に関する国の施策の状況や最新の事例などを交え、髙𣘺様の軽妙で切れ味鋭いお話に、会場がグイグイ引き込まれていきました。
・『地方創生』という言葉が、少なくとも首都圏では残念ながら選挙の争点になっていないため、地方創生って進んでいるの?と疑問を持たれている方もいると思う。実際には毎年交付金が出ており『進んでいるところは進んでいる』が、正しい答えになる。
・国の地方創生施策の基本は地方創生推進交付金。地方側が主体となって課題解決事業を決め、国はその申請内容を尊重している。ほかにも地方創生人材支援制度(日本版シティマネージャー派遣)や地域経済分析システム(RESAS)など、自治体のレベルに合わせ多様な支援を行っている。
・知恵と熱意がある地域は、数年単位で成長を感じる。「持続可能な地域社会総合研究所」2017年8月21日公表データによると、ここ5年で過疎市町村の11.7%が社会増(移転による増加)を実現できている。1 and onlyな魅力、『エッジの効いた』戦略をとっている自治体が伸びている一方、「普通」な市町村が苦戦している。
・地域活性化の定石は、かつては工場誘致だった。しかし結局インセンティブをベースとしたパイの奪い合いでしかないし、雇用を産む保証もない。これから地方創生で注目すべきは観光や農水産品六次化関連だが、『地域商社』や『DMO』はややバズワード化しており、実態として地域の何を、誰へどのように売るか、というマーケティングがきちんとできていないケースが散見される。
・地方の場合、単一事業ではペイしないため、多数の小規模な事業を融合していく考え方が重要。シェアリングエコノミーは時間や人材などの遊休資産活用であり、とても重要な手法。
過疎化が進む地域で自走可能な事業をつくる「非市場戦略」
一般社団法人RCF 代表理事 藤沢烈からは、シェアリングエコノミーについて、および地方における事業展開に不可欠な「非市場戦略」の可能性について、事例を交え紹介しました。
・シェアリングエコノミーとは、多様な『遊休資産』を『インターネット』を介して『個人と個人』の間で売買・貸借・交換など『共有』していく、新しい経済の動き。
・シェアリングエコノミーは、地域(自治体)や企業にとっても機会である。地域では人口減少下でハード投資が困難な中、増加傾向にある遊休資産を活用してインフラ整備・事業形成が可能になる。また、企業は地域における事業を、新たな事業機会・成長機会として捉えることができる。
・過疎化が進む地域で自走可能な事業を確立させていくために不可欠な手法は『非市場戦略』。『非市場戦略』とは、既存市場(マーケット)でどうシェアを取るか、ではなく『市場』自体を作っていく考え方。ロビイングや国際ルール形成、現地行政やNPOなど現地ステークホルダーと連携しながら、事業をサステナブルにしていくことが求められる。
藤沢からは東北における非市場戦略の事例として「Starting Over 三陸」「化粧品『龍泉洞の水シリーズ』」を紹介しました(*)。いずれも、同社の営業だけではなかなか入れない地域で、市場をつくる段階から公的機関を巻き込み、成果をあげました。
「大事なのは『儲からないから補助してもらう』のではなく『初期投資です』として地域にもたらすメリットと展望を示し、行政を巻き込むスタンス。単に期間限定の補助金が欲しいだけで行政案件を目的として入札してくる企業とは、差別化できるはずです」(藤沢)
(*)・「Starting Over 三陸」:株式会社リクルートキャリアが沿岸企業の新卒採用を支援。92%が3年定着。初年度は気仙沼市が助成
・「化粧品『龍泉洞の水シリーズ』」:日本ゼトックが岩手県事業を活用して岩泉町の地域資源『龍泉洞の水』を知り、地元第三セクターと連携してヒット商品開発に繋がった
釜石の復興を端的に表すキーワードは「シェア」
釜石市オープンシティ推進室長 石井重成氏からは、釜石市における復興の歩みと現状、特色についてご紹介いただきました。釜石市は元々高齢化率が高く、震災の被害も甚大だった地域。そんななか、石井氏が取り組んでいるのは多様な「つながり」(活動人口/関係人口)を育み、誰もが「自己決定」を実現できる、レジリエントな地域社会づくりです。
・経済が『右肩上がり』の時代と『右肩下がり』の時代では、「復興」の意味が異なる。右肩下がりの時代の復興は「元に戻すこと」ではなく、ダウンサイジングの機会と捉え、新たな産業をつくり、町をデザインしなおすこと。2004年10月23日に発生した中越地震は「『右肩下がり』の時代における災害復興」を日本で初めて定義した震災だった、と言われている。
・釜石市では、市民自身が「自己決定」を経て「つながり」づくりに関わっていて、そういう機会をいろいろと創り出してきた。たとえば「Meetup Kamaishi」は「釜石市民の暮らしを体験していただく」ことを目的とし、市民が担い手となって28のプログラムが実施された。
・「ローカルベンチャー」(起業型地域おこし協力隊):地域資源を価値に変えて、新たな経済や暮らしの豊かさを創造する多様な生き方の集合体と定義。起業したい若者を、市や地銀、大学、商工会議所など「オール釜石」で応援している。
・地元の高校生を対象とした「釜石コンパス」。地域に貢献したいと考えている高校生はたくさんいるが、もっと地域との繋がりや大人たちの考え、意見を知りたい、といった思いから生まれた。9割が「自分の意識が変わった」という反応を得られている。ほか、コミュニティビルディングのための事業として「釜石◯◯会議」や、半官半民の地域コーディネーター「釜援隊」事業も継続している。
・Airbnb Japan株式会社とは、同社のビジョンと釜石市が「つながり人口」と呼んでいる部分とが重なったので、2016年10月に連携協定を締結した。2019年9月に開催されるラグビーW杯™ の開催会場のひとつとして釜石市鵜住居町に現在建設中のスタジアムがある。このスタジアムのキャパシティ約16000に対して、釜石の宿泊キャパは1200しかない。ホームシェアリングによって宿泊キャパシティを少しでも補い、来訪者に地域住民との接点をもってもらいたいという発想がきっかけ。ホームシェアリングの担い手の開拓は苦労しながらも現在進行中。市内の各地域(地区)に「コミュニティサポーター」と呼ばれるコーディネーターを配置し、横連携できる体制を作っている。
・釜石は車社会であり、観光客にとっては二次交通が大きな課題。シェアサイクル「COGICOGI」、Meetup Kamaishi期間中の「シェアノリ」の試みなども実施している。
・市民アンケートでは、主体的に復興まちづくりに関わった市民ほど復興を実感するという調査結果が出ている。『右肩下がり』の時代の復興とは何か、それに対する答えの一つだと思っている。
シェアリングエコノミーは企業にとってどんなビジネスチャンスになり得るのか?なぜ釜石なのか?
セミナー後半のパネルディスカッションでは、藤沢氏、石井氏に加え、Airbnb Japan株式会社 公共政策本部長 山本美香氏、また釜石市で2012年から復興支援事業を継続展開している、株式会社日立製作所 CSR担当部長 増田典生氏が登壇。
セミナー参加者の多くが首都圏のビジネスパーソンであることから、シェアリングエコノミーをビジネスとしてどう捉えればよいか、地域における事業にどんな参入の仕方をしていけばよいか、また釜石についてどんなポテンシャルがあるのか、活発な議論が交わされました。(以下、敬称略)
Q:なぜ「釜石」なのか?
(藤沢)釜石は非常に「外に対してオープン」な気質がある。釜石は鉄産業の企業城下町だが、国際的な港もあり、オープンな機運があった。外の人間を受け入れる事ができる地域だった。
(増田)企業が地域に入る理由は3つあり、地縁、血縁、および、「よそ者」を受け入れてもらえる土壌があるかどうか。釜石市はステークホルダー同士の関係性が非常に良く、ポリティカルな部分で右往左往することが少なさそう、またIT企業でも受け入れられるのではと判断した。
(山本)本業を通じた貢献をしたいと思った時、条件が揃ったのが釜石だった。また、釜石市さんの「つながり人口をつくりたい」という考え方が、コト消費を通じて観光を活性化していきたいという当社の思いと一致した。
(石井)釜石市市長には「時代のさきがけとなる」という気概とリーダーシップがあり、近代製鐵というイノベーションを生んだ土地のDNAが受け継がれている。また市役所内でも、もちろんリスクも含めて検討したが、自分たちの地域が何をしたいのか、自治の意識から意見がまとまった。また、釜石市は新日鉄さんの企業城下町として発展してきた。経営の合理化で釜石在住の社員数は減少したものの、驚くのは社内ベンチャーがとても活発であったということ。地域への熱意も強い。そういう会社の企業城下町だったことも、釜石では少なからず影響しているのではないか。
(髙𣘺)地元住民が「よそ者」「若者」を上手に巻き込んでいる、全国的にも稀有な地域だと思う。
Q シェアリングエコノミーに取り組むことで何が得られるのか?
(石井)地域で生計を立てていくためには「小さなビジネスをいろいろ手がける」ことも必要。そんななか、何らかのアセット(時間、空きスペース、スキル、など)を持っている個人や法人が「暮らす」「働く」可能性を広げられるのは、シェアリングエコノミーの最大のメリット。
(山本)ホームシェアリングの場合、担い手(ホスト)が働く時間を自分で選べて、自分の可能な範囲で地元の観光に参加できる。個人の働く機会になったり「家族の対話が増えた」というホストもいる。また今まで当然だと思っていた地域の魅力を、ゲストから教えてもらえる可能性もある。
(増田)当社としては「スキルの共有とブラッシュアップの機会」としてとらえている。例えば、いま釜石でのプロボノ案件のリーダーをしている社員は本業は公共自治体向けSEであり、釜石でプロボノ知見を培うことを通じて本業の公共自治体に関する知見として活かしている。
Qシェアリングエコノミーの課題とは?
(藤沢)地域でビジネスをしていくには「関係づくり」が重要。都会では初対面でも商談ができるが、地域ではそうはいかない部分がある。釜援隊のような「間に入る」存在が必要。
(山本)ホームシェアリングは、担い手であるホスト(住民の方)が主役で、彼/彼女たちがやる気になることが一番大事。他地域からスーパーホストを招いてミートアップをした際、一番関心が高かったのは、スーパーホストさんのお話であり、交流だった。
(増田)釜石は震災後、多くの企業が来たが、ほとんどが自社製品やソリューションの売り込みだったと聞いている。我々は約半年たってからようやく、あるときから支援先の方から飲みに誘われるようになり、本音ベースで業務課題などを聞くことができるようになった。
Q最後に各自一言
(山本)シェアリングエコノミーに取り組む企業として、自社だけで100%課題解決できるとは思っていない。釜石市や個人が解決したい課題があって、はじめて役に立てるものと考えている。
(髙橋)年間70自治体程度にシティマネージャーを派遣しているが、もっと民間からも入ってもらいたい。企業人が地域に入り、地域で課題を知り事業を作る経験は非常に大きな財産となる。企業が地域へ人を派遣することにもっと積極的になって欲しいし、ビジネスパーソンが地域から自ら学ぼうとする姿勢も必要。
(石井)21世紀の公共性は「個人の多様な生きざまの集合体」。人口減少が進んでいくなか、自分の意志、モチベーションで社会事業に取り組む若者もいるのは明るい兆し。個々の何かを生み出したいという思いに、これからも釜石市は寄り添っていきたい。
(藤沢)地方創生は目的ではなく手段であり、持続的なビジネスを作っていくためのきっかけ。非市場戦略の手法をうまく使いながら、ぜひ、どんどん地域に関わっていただきたい。
いかがでしたでしょうか。
この「共創イノベーションセミナー」は登壇者から参加者への一方的な情報伝達だけではなく、参加者同士が隣同士、参加動機や感想などをシェアリングする時間も多くつくるのが特徴です。今回も質疑応答だけでなく、会場のそこかしこでこぼれる笑顔や笑い声が数多く見られました。
また会場からは、地方創生の意義とは何か、また非市場戦略の成功要因はあるのか、といった質問も行われ、多くの方々にとって事業を通じた地域活性化の可能性を考える機会となったようです。
次回共創イノベーションセミナーは開催決定次第、告知致します。どうぞお楽しみに。
◆この記事に関するお問い合わせ
一般社団法人RCF 広報担当 pr@rcf.co.jp