【連載】新型コロナ禍のなか生まれた、新たなセクター連携と見えてきた次の課題(1)
2019年末に中国で始まり、世界をパンデミックの渦に巻き込んでいる新型コロナウイルス感染症は、日本社会においても大きな影響を及ぼし、多くの社会的課題を我々に突きつけています。
一般社団法人RCFは、2011年の東日本大震災以来、こうした社会の緊急的な状況や社会課題に向き合ってきた社会事業コーディネーター集団として、これまで培ったノウハウや行政、企業、NPO等とのつながりから、新たな課題解決に向けた取り組みを行っています。
この連載では、全4回に渡り、そのいくつかのプロジェクト事例とそこから見えてきたことをお伝えしていきます。
目次
最前線でたたかう医療従事者の心身を食で支える
食品の物資支援をワンストップで医療従事者の方々に提供する「WeSupport」は、もっとも緊急性が高い課題に対して取り組んだ、新型コロナウイルス感染症関連のRCFの代表的なプロジェクトです。オイシックス・ラ・大地株式会社(以下オイシックス)、ココネット株式会社(セイノーホールディングスグループ、以下ココネット)とRCFとが連携し、多くの企業・個人の方々のサポートを受けて実施しています。
新型コロナウイルス感染症が広がる緊急事態のなか、多くのメディアでも、最前線で予防や治療に向き合う医療従事者の方々の過酷な現場や医療崩壊の危険性が伝えられてきました。
新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる指定病院は、まさに現場の最前線。限られたリソースのなかで、医師・看護師が自ら感染リスクを負いながら、自宅に帰れない、休めないといった、肉体的・精神的に非常に苦しい状況で人々の健康や命を守るために奮闘されています。
その一方で、保育園に子供を預けられないなどといった、医療従事者に対するある種の差別も一部で起こるなど、社会としてのサポートが十分ではない状態も指摘されていました。
当初からマスク・防護服の提供は注目されていましたが、我々が焦点を当てたのは「食」です。上述のようなストレスフルな環境下で、医療現場のみなさんは食事も満足に取れない状況が続いていました。もちろんゆっくりと外食はできない、院内の食堂も使えない、弁当を注文しても冷めてしまう、非常に短い時間でさっと食べなければいけない。
そういった制約の多いなかで、栄養サポートはもちろんのこと、食事の時間を安らぎとしていただけるよう、気の利いた食材を現場に届けたいという思いが発端でした。
社会全体であなたを支えている。そんなメッセージを届けたい
今回の取り組みでは、3社が役割を分担して実行しています。
普段から食品メーカーと付き合いのあるオイシックスは全体統括の役割を担い、食品提供に協力してくれる食品メーカーを巻き込み、また公式サイトやFacebookページなどで都度情報発信を行なっています。
ココネットは倉庫の管理運営や配送オペレーション、配送員へのトレーニングを担い、届いた食品を定期的かつ迅速に、そして感染リスク等に配慮して安全に届けています。
そしてRCFが担当しているのは資金調達です。食品の大多数は寄付によって賄われていますが、配送部分に莫大な経費が当初から見込まれていたため、プロジェクトの実行に際して比較的大規模な寄付を早急に集める必要がありました。
企業等と連携して、困窮する現場に無償で食品を届けるスキームは、RCFが2017年から関わっている「こども宅食」の事業に類似しています。
これは、ひとり親世帯等の経済的に苦しい状況にある子育て世帯に食品を届けて支援するものですが、その本質的な意義は、当事者がその苦しみを自己責任として背負い、精神的にも追い詰められているところに寄り添い、「社会から見守られている」という安心感を届けるというところにあります。
今回の「WeSupport」も同様で、食品の無償提供という形を通じて、医療従事者のみなさんを社会全体が支えているというメッセージを届け、困難な状況下でも重要な任務を続ける気力を持ち続けていただくというのが大きな目的としてありました。
発案から2週間で事業スタート、ほぼオンラインで完結
この取り組みは元々オイシックスの高島宏平代表取締役社長からお声がけいただき、RCFで座組みを組み立てました。プロジェクトを実行に移すために必要なのは、食品メーカーから食品を集めること、配送をしっかり行うこと、資金を集めること。この3つに沿って課題を整理し、ココネットを巻き込み、寄付を募って初動で500万円を集め、2020年4月20日にリリースし、事業をスタートさせました。
高島社長から発案いただいてからプロジェクトが走り出すまで実質2週間。感染が拡大し外出自粛が必要ななかで、ほとんどのやり取りをオンラインで完結させ、短期間で仕組みをゼロから組み立てることができたのは、特筆すべきことでしょう。
寄付については、大きく分けて2つ。ヤフー基金を活用した一般募集と、関係性のある企業や個人に対しての働きかけによって集めました。当初は都内で約2ヶ月間(〜6月末)の実施を行うための約2,000万円を目標としていましたが、現在(2020年6月3日現在)約4,000万円強を集めることができています。これにより、プロジェクトの終了予定は8月末まで延長し、東京だけでなく神奈川にもエリアを広げて実施することが可能となりました。
走り出して約1ヶ月の5月28日時点で、73社のサポートを受け、33病院に20万食以上、90,092人分の食事を支援することができています。おかげさまで、現場の医療従事者の皆さんには大変喜んでいただくとともに、日本医師会の横倉義武会長からもメッセージが寄せられ、プロジェクトへの支持をいただきました。最終的には50の病院に40万食を届けることができそうです。
企業とNPOの信頼関係がスピーディーな社会事業立ち上げを生む
これだけの規模の仕組みを短期間に、オンラインで立ち上げ、また効果的に実施することができたのは、企業(ビジネスセクター)とNPO(ソーシャルセクター)という異なる特性を持つセクターが連携できたこと、そしてこれまでの取り組みから信頼関係がすでに構築されていたことがその理由です。
また日頃から、「寄付をしたい」「支援をしたい」などの相談が、個人や企業からRCFに寄せられるなかで、今回の事業を通じてRCFが中間支援的な機能を果たし、これらのニーズをタイミングよく重要度の高い現場につなぐことができたことも、成果の1つと言えるでしょう。
ちなみに、この「つなぐ」という役割については、行政に対しても大きな可能性があります。
震災などの災害や、今回の新型コロナウイルス感染症のように社会を揺るがす問題が発生したとき、世の中の人々は国がどんな政策を打ってくれるのか、また、どのように運用されるのかに注目しがちです。しかし国の役割は実行よりまず予算をつけること。その予算を、現場の社会課題に即してより適切に運用・実行していくためには、現場を担う立場であるソーシャルセクターがボトムアップで政策形成に関わる役割を担う(こういう制度が必要です、実行できますという政策提言を行う)ことの重要性が、大きく変わりゆくこれからの時代、ますます高まっています。
NPOからの声を提言として政治に届ける
NPOによる政策提言や、その提言力を高める必要性に対する課題認識から、2016年にRCFが設立に関わった新公益連盟(以下、新公連)という団体があります。
この団体は全国の非営利組織や社会的企業が連携し、異なるセクターとの連携・協働や経営力強化を通じて社会課題解決が促進されることを目指すもので、現在113団体(2020年6月現在)が加盟しています。
新型コロナ渦、NPOも非常に困難な状況に立たされています。NPOは現場で人と直接対面して活動することが取り組みの基本であるにも関わらず、人との直接の関わりが寸断される新型コロナウイルスの影響下では、活動自体が難しくなっているのです。
社会的困難を抱える方(=需要)が増えているにも関わらず、サービスの提供(=供給)ができない。活動実施が難しいと、寄付・助成金や委託事業収入が減り、今後の活動再開も難しくなってしまいます。
RCFでは、新公連の事務局として、加盟する全団体に緊急アンケートを実施し、回答のあった30団体からの内容を提言としてまとめ、まず3月頭に自民党の社会的事業推進特別委員会に提出したほか、超党派によるNPO・NGOの戦略的あり方を研究する会、公明党のNPO局、NPO議員連盟など、合計4箇所で提言活動を行いました。
今回の提言によって、国の持続化給付金の給付対象にNPOもしっかり組み込まれるという動きにつなげることができました。
国の政策をよりよいものにしていくために
いかに国の政策と実際の現場をつなげ、政策の意図を適切に現場に反映させるか。それは緊急度の度合いに関わらず、社会課題解決のための非常に重要なポイントです。
次回はこの観点から、中小企業やスポーツの分野での事例を紹介していきます。