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行政官がインタビュー ~プロジェクト編 〜「RCFと福島」

こんにちは。霞が関で働いている篠原です。先日は猛烈な台風が日本列島を襲いました。台風19号の災害で犠牲になられた方々に心から哀悼の意を捧げます。また、被災地にお住いの皆様にお見舞い申し上げます。

さて、今回のインタビューのタイトルは「RCFと福島」です。私は、昨年夏まで2年間、復興庁に出向していました。復興庁での仕事の中で特に力を入れて取り組んだのが、福島県沿岸部12市町村(※1)の一つである田村市を中心に立ち上げた、地域の産業をリードしていく人材を育成する「福島復興産業人材育成塾」です。第1期生は12人ですが、みんな地元田村市、そして福島に対する熱い想いがあり、育成塾最終日の卒塾式で各々が発表した地域を盛り上げていくための構想を聞いて、その想いに感動して泣いてしまったことを覚えています。
さて、今回は、田村市も含めた福島県沿岸部12市町村を対象にRCFが取り組んでいる創業支援事業である「FVC(フロンティア・ベンチャー・コミュニティ)」(※2)のお話を、事業担当の大槻さんからお伺いしました。早速インタビューを始めましょう。

(※1)福島県沿岸部12市町村:田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村
(※2)本事業は、令和元年度経済産業省委託事業として、一般社団法人RCFが6団体(公益社団法人福島相双復興支援機構(福島相双復興官民合同チーム)、一般社団法人あすびと福島、株式会社小高ワーカーズベース、特定非営利活動法人TATAKIAGE Japan、特定非営利活動法人ETIC.、一般社団法人MAKOTO)と連携し運営。

福島の沿岸部12市町村の現状、課題ついて

―― まず、東日本大震災で避難指示等が出て大きな影響を受けた、沿岸部12市町村の現状と課題について教えてください。

FVCを立ち上げた2017年は福島にとってはひとつの転換点で、避難指示が3月末から4月にかけて解除され、多くの方が以前住んでいたところに帰れるようになりました。しかし、住めるようになっても、人が何年も住んでいない地域なので、生活関連サービスの供給が十分ではありません。また、東日本大震災の影響もあり、少子高齢化や過疎化が進み、これらの社会課題とまさに今、向き合っている地域です。(※1)

沿岸部12市町村の一つである南相馬市には、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」をミッションに、起業型地域おこし協力隊や、コワーキングスペースの運営、そして今年3月に女性職人が立ち上げたハンドメイドガラスブランド『iriser(イリゼ)』(※2)の運営支援等を行っている株式会社小高ワーカーズベースを立ち上げた和田智行さんがいらっしゃいます。和田さんは南相馬市のご出身で、東京の会社の経営者でしたが、震災を機に地元に戻られました。この地域が抱える社会課題を一つ一つ解決し、地域を活性化するためには、和田さんのような起業家が必要です。地域内だけではリソースが限られてしまうので、外から呼び込んでいくことも必要であると考えています。福島県外の人が福島12市町村に移り住んで、または、首都圏等にいながら12市町村向けに事業展開を行っていく人材を増やしていくためのしかけが必要です。

※1 iriserは、フランス語で「虹色に輝く、虹色に染める」という意味。
※2 避難区域の変遷についてはこちらをご参照ください。

FVC(フロンティア・ベンチャー・コミュニティ)について

―― では、次に、大槻さんが担当しているFVCの事業内容について教えてください。

まず申し上げておきたいのが、このFVC事業は、よくある起業支援事業とは異なる事業であるということです。FVCは一言で言うと、起業など、福島12市町村で新しいチャレンジをしたい人たちのコミュニティをつくることに主眼を置いています。市町村内に起業家がいても、市町村外にいると、そのような人がいることを認知するのは難しいですし、たとえ名前は知っていても、やりとりをしたことがなければ、その人の熱い想いを知ることや、その人に憧れることも難しいじゃないですか。また、東京にいる人が福島で起業したいと思っても、自分一人では福島で起業するのは難しそう、現地の状況はどのような感じなのだろう、と分からないことが多く、踏み出すのにハードルが高いと思います。そのようなときに、東京で同じように思っている人や、既に福島で起業していて話が聞ける人がいれば、活動が生まれやすいですよね。ですから、起業したいと思ったときにすぐにアクセスできるような、チャレンジングな人たちのコミュニティをまずは作ろうという発想からこの事業を立ち上げました。まず、コミュニティをつくって、その次のステップとして、このコミュニティをリードしていけるようなモデルケースも必要なので、具体的な起業支援にも並行して取り組んでいます。

―― このコミュニティは現状どれぐらいの規模で、どのようなバックグラウンドの方が入っているのでしょうか。

非公開のfacebookページがあるのですが、延べ約250人です。みなさん福島での起業や、新しいチャレンジに関心を持っているという共通項がある人たちです。このコミュニティに参画している方のバックグラウンドは、東北の被災地でボランティア経験がある人、出身が福島、親類が福島や東北の方がおおむね8割程度です。その他は、福島12市町村で何かしたい、起業したいと考えている人です。このコミュニティから、毎年10人程度、起業につなげていくことをFVCのKPIに設定しています。

―― FVCの事業概要についてもっと詳しく教えてください。

まずは、福島の「今を知ってもらう」取り組みをしています。具体的には、福島の現状の課題や、どのような起業家がいるのか、そして私たちは「現地創業支援拠点」と呼んでいるのですが、起業するステップになった際にどのようなサポートを現地で受けられるのかについて、東京や福島で開催しているFVCカフェや現地のスタディツアーを通して説明しています。

次に、実際アクションを起こそうと思っている人に対しては、個別相談・伴走支援をする「チャレンジサポート」を行っています。具体的には、いつ、何をしたいかをヒアリングし、その上で、現地の関係者やすでに起業している方を紹介したり、事業計画書の作成支援や、資金調達の相談支援をしたり、必要なサポートをしています。先ほど紹介した「現地創業支援拠点」である南相馬市には、先ほどご紹介した株式会社小高ワーカーズベースの和田智行さん、田村市は廃校を活用したテレワークセンターを田村市で開設した一般社団法人Switch代表の久保田健一さん、楢葉町は、地域でアクションを起こしたい人たちの場づくりをしている特定非営利活動法人がメンター役として参画しており、相談者の相談内容に応じてつなぐこともしています。

―― 事業化が具体的に進んでいる事例をいくつか紹介していただけますか。

南相馬市は高齢者が多いので、車イスでも安心して入れる福祉美容室とパン屋を2020年3月~4月に開設することを目指している福祉美容師の和田川久美子さんがいます。もともと福島県会津若松市のご出身で、その後、神奈川県に住み、病院や老人施設、個人宅への訪問美容を専門とした福祉美容師として活動されていましたが、「いつかまた福島で住みたい」と考えていらっしゃいました。2017年にfacebookで知ったFVCが主催する現地視察ツアーに参加され、その後、FVC事務局等と移住や起業の相談を重ね、その過程で、南相馬市の和田さんにもお会いいただき、起業の構想を練り上げていきました。少し補足しますと、和田川さんには娘さんがいらっしゃいまして、ずっとパン屋でお仕事をされており、いつかはご自身でお店を持ちたいと考えていました。それで親子で起業しようという話になり、先ほど申し上げた、「福祉美容室とパン屋」という計画になっています。和田川さん親子はジブリが好きで、立ち上げる「福祉美容室とパン屋」のネーミングは「仁坂の森の栗の木ベーカリー 福祉美容室」です。すてきじゃないですか。

※上段左から3人目が高田さん

南相馬市出身の高田江美子さんは、大手の旅行情報誌で営業をされ、その後、北海道で観光事業者向けのウェブコンサルティング会社に勤めていましたが、東日本大震災を契機に、故郷に対して何かしなくてはという思いを抱き、また、自分のキャリアを見つめなおして、いずれは東北を拠点にして働きたいと思われていました。そのような中で、FVCのイベントを知り、参加されて、ご自身の郷里である南相馬市にこんなにチャレンジングな人がいること、応援してくれる人がいることに驚かれたそうです。その後も何回かFVCのイベント等に参加され、徐々に、Uターン創業にチャレンジしようと思うようになりました。ただ、さすがに、すぐに自分の力だけで起業するのはハードルが高かったので、和田さんが運営しているNext Commons Lab の「起業型地域おこし協力隊」という制度も活用し、今年の4月から南相馬市に戻られて、創業準備をしています。具体的には、今まで培ってきたプロモーションやウェブマーケティングの経験を活かして、南相馬市に限らず、福島県で熱い想いを持って栽培されている農作物や工芸品などのマーケティング支援などに取り組んでいく予定です。高田さんは、過去参加されたFVCの事業づくりツアーで、同じく沿岸12市町村の一つである川内村の遠藤きのこ園の遠藤さんに出会い、そこで栽培されている「ひたむき椎茸」に対する遠藤さんの熱い想いに共感して、この商品のブランディング支援にも関わりたいと考えていらっしゃいます。

その他にも南相馬市出身の20代の女性は、東京の団体で採用担当の仕事をされているのですが、その人事担当のスキルを活かして、郷里の団体でも活動したいと考えています。南相馬市の和田さんを紹介して、南相馬市で副業を始められています。

―― この事業の鍵は何だと思っていますか。

先ほども申し上げましたが、いつでもアクセスできるゆるいコミュニティをつくることが鍵になります。福島で何かしたいと思っている方は何人もいますが、行動に移すタイミングは人によってバラバラです。アクションしたい!と思った時に、すぐにアクセスできる場所があることが重要だと思っています。また、このコミュニティの認知度を上げていくことも必要です。常に新しいチャレンジングな人が入ってきて、様々な経験知が蓄積され、お互いが切磋琢磨し合い、コミュニティのレベルを上げていかないといけません。まずは、先駆者である和田さんのような方をロールモデルとして福島県外の方々にも知っていただけるようにするにはどうしたらよいかについても今考えています。このコミュニティが継続的に機能するようになれば、私たちがいなくなっても、福島で起業する人が増えていくよい循環ができるのではないかと考えています。

FVC」の今後について

―― FVCの目指すところは何でしょうか。

FVCという事業がなくなった後も、現地の起業支援機能が維持継続されるような仕組みをつくりたいと考えています。そのためには、現地の方々の強いコミットメントが不可欠です。まずは、現地の方々に、地域にポジティブな効果が出てきていることを実感していただき、その上で、自分たちでこのプラスの効果を継続させていくために何をしたらよいか考えて、行動につなげていただけるような仕組みをつくっています。例えば、先月、南相馬市の和田さんが他の地域の取り組みが見えにくいという問題意識があったこともあり、弊社もバックアップし、和田さん、田村市の久保田さん、楢葉町や富岡町のネットワークを持っているTATAKIAGE Japanの小野寺さん、また、自治体からは、南相馬市と田村市にも集まっていただき、横連携に向けたネットワーキング会議を開催しました。会議では、各々の地域の抱えている課題、どのような想いでその課題に取り組んでいるのかについて情報共有をしました。このように、市町村を越えて、お互いが情報共有をする場を設定することにより、各々のノウハウの共有が可能となりますし、このような場で関係性を深めることができれば、今後、必要な時に、リソースを補完し合い、協力することができます。このように、活動の継続性が担保されるよう、現地サイドが主体的、能動的に動けるような仕組みづくりに取り組んでいます。

福島の魅力は、「人」だと思っています。南相馬市の和田さんなど、福島で輝いている人はたくさんいらっしゃいます。今、弊社が支援しているFVCのコミュニティは生態系のようなものだと考えています。この生態系を常に進化させ、このように魅力的ながんばっている人がいるから自分もそのような人たちがいる福島で起業しよう、一緒に何かしよう、そう思って、どんどんパッションある人がコミュニティに入ってフロンティアで活躍していく、そんなことを目指しています。

社会事業コーディネーターとしてのやりがいについて

 

―― 社会事業コーディネーターとしてのやりがいについてどのように考えていますか。

和田さんや久保田さんなどがいる「現地創業支援拠点」は、いわゆる私たちRCFが行っている社会事業コーディネーターの役割と同じであると思っています福島で、この役割を担える人材を継続的に輩出できるような仕組みづくりに携われることにやりがいを感じています。まだ、ベストプラクティスが確立されていない分野だと思いますし、福島でモデルケースがつくれれば、全国への横展開も可能性があると思います。

インタビュアーから最後に一言

 

RCFの社会事業コーディネーターとしての機能を福島につくっていきたい、というお話が大槻さんからありましたが、まさにこのことこそ、各地域が抱える社会課題解決のための鍵になると思いました。復興庁時代に携わっていた「福島復興産業人材育成塾」の塾生の方々に話を聞いた際にも、何かチャレンジしようと思っても、相談できる人が周りにすぐいないという話を聞きました。想いがあっても、想いだけで終わってしまっては可能性をつぶしてしまいます。まずは、福島を”可能性”がある場所にしていくことができれば。全国どこも人口の減少は進みますが、可能性を信じてチャレンジングな人が集う街を、福島をモデルに各地域でつくっていけば、日本は活気ある国になっていくのではないでしょうか。

(参考)
FVCの取り組みについて

 

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