【連載】新型コロナ禍のなか生まれた、新たなセクター連携と見えてきた次の課題(2)
新型コロナウイルス感染症に伴って起こっている社会課題に対して、現在RCFが実施しているプロジェクト事例とその考察をお伝えする連載。
前回は、最前線でたたかう医療従事者の心身を食で支える「WeSupport」の取組みと、NPOや社会的企業による連合体「新公益連盟」の事務局として実施した政策提言について紹介しました。
そのなかでも、国の政策と実際の現場をつなげ、政策の意図を適切に現場に反映させる重要性について示唆しました。今回はそれに関して、中小企業やスポーツの分野で起こった課題と、どのようにRCFや弊団体代表理事・藤沢が「つなぐ」役割を果たしたのかについて紹介します。
目次
ありそうでなかった、制度横断検索の仕組み
今回の新型コロナウイルスの影響下では、中小企業や個人事業主の経営不安、経営危機も大きくクローズアップされました。
経済産業省の持続化給付金に代表されるように、各省庁や都道府県、市町村などから、給付金、補助金や融資支援、休業要請に対する協力金など、様々な施策が打ち出されています。
個人事業主や中小企業に対して、これほどまでの支援の厚さは、過去最大ではないでしょうか。
それらの支援策を、自分の地域や悩みに応じて横断検索し、必要な支援を見つけられる仕組みが、2020年5月20日に立ち上がりました。それが対新型コロナウイルス経営支援サイト「ザ・ピンチヒッター」 。
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、個人事業主や中小企業を支援するプラットフォームづくりに掲げるfreee株式会社(以下、freee)が社会貢献の一環で立ち上げたもので、特定非営利活動法人HUG(以下、HUG)とRCFが協働して構築・運営しています。
このプロジェクトでは、情報発信による中間支援を得意とするHUGが全体のコンセプトづくり・デザイン・システム構築を担当し、RCFは様々な中小企業支援制度の情報整理・精査と各種情報提供を行っています。
リテラシーがなければ適切な支援が受けられない?
「ザ・ピンチヒッター」の意義は、ただ読み手に分かりやすいまとめサイトを作ったというものではありません。
一般の人々がイメージする以上に、行政は中小企業や個人事業主の情報を把握していません。事業者一人ひとりが各制度に申請をしない限り、せっかくの支援も受けられないのが現状です。
また一概に行政といっても、各省庁・各都道府県・各市町村それぞれ別の組織として動いているため、制度の詳細も異なります。そのため事業者は、各組織の制度情報を探して読み込み、対象や条件が自分と適合する制度を見つけ出さなければいけません。制度の運営元によって制度内容・申請方法・情報の発信方法も違うので、なかなか簡単にはいきません。
情報リテラシーの高い方であれば自分でできなくもないですが、それでも結構な時間的コストがかかってしまいます。結局何を見たらよいかわからず、申請を諦めてしまう事業者も多いのです。その結果、本当に困っている方ほど余裕がなくて申請できない状況も起こっています。
またこれまでは地域の商工会議所が行政と事業者の間に入ることで、そういった複数の制度をフォローしていました。しかし、商工会議所と関わりを持たない事業者が今、都市部を中心に増えています。そういった事業者には、支援を必要とする事業者に対して制度情報を届けたり、申請の方法をサポートするための新たな役割が必要になっているのです。
「ザ・ピンチヒッター」は、それらの課題を解決するため、様々な支援制度の情報などを一元化しようと作成したものです。直感的な操作で地域・業種・悩み(資金繰り、雇用維持など)を選ぶと、現在活用できる支援制度を検索することができ、同一のフォーマットで申請までの必要なステップを把握し、リンクから該当する制度の実際のページに飛ぶこともできます。
各自治体が制度づくりの参考としても活用
「ザ・ピンチヒッター」は、他にも事業者の制度活用事例や有識者のインタビューなど特集記事も掲載し、各制度の意義を伝えることにも貢献しています。
「ザ・ピンチヒッター」は、主にfreeeを通じて約10万社以上の会員事業主を中心に活用されていますが、他の自治体の制度内容にも簡単にアクセスできることから、今後新たな制度を作るための参考として自治体関係者が閲覧するケースも多いようです。
現在、国では二次補正予算のなかでより大きな制度を検討していたり、自治体でもより地域の実情に合った施策を検討しています。「ザ・ピンチヒッター」でも、そういった新しい情報をカバーしつつ、地域ごとの課題や実情に応じた情報提供ができるようにしていきたいと考えています。
また、上述のように商工会議所の会員にしか自治体の制度情報がいかないという実情も解決が必要です。中長期的には、商工会議所の仕組みとは別に、今回の「ザ・ピンチヒッター」のようにオンラインのみで制度の情報が届く仕組みの構築のほか、このシステムを前提とした取組みも可能性があるでしょう。
たとえば、オンラインの情報伝達の仕組みがあることで、プロモーション・運用コストを抑えた効率的な予算活用が可能になりますし、もし行政が事業者の情報を一定量把握できるようになれば、急ぎを要する状況下でも、事業者側も申請に時間をかけずに支援が受けられるといった仕組みも可能になります。
そういったことが実現するためには、freeeのような事業者向けクラウドサービスを提供する企業の役割は、今後ますます重要になってくるでしょう。
コロナ禍で明るみに出たスポーツ界の課題
「ザ・ピンチヒッター」は行政の制度を正しく現場に届けるための役割でしたが、次は現場の声を行政の制度に反映させた実例です。前回の非営利組織(新公益連盟)に続いて、今回はスポーツ組織。代表藤沢が今年から理事(非常勤)を務めている、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(以下、Jリーグ)に関する事例です。
新型コロナウイルスの影響によって、スポーツ界でも多くの試合が延期・中止となったり、無観客試合を余儀なくされる事態となりました。Jリーグの場合は、全国に50以上のクラブがあり、その運営資金の多くはスポンサー費用によって賄われています。
試合が予定通り行われれば、そのスポンサー費用は企業にとって広告宣伝費となり損金扱いとして処理されますが、予定通り試合が開催されない場合、企業のスポンサー費用は損金扱いできずに課税対象範囲が増えてしまう可能性があり、それよってJリーグからスポンサーが撤退してしまうというリスクが浮上していました。
実はプロ野球に関しては、すでに1954年にスポンサー企業から球団への拠出について税優遇が認められていたのですが、Jリーグ含めその他のスポーツでは、そのような税務上の取扱いについては曖昧なままだったのです。
Jリーグの専務理事・木村正明氏はこの事態を受け、関係各所に政策提言を実施。見事、Jリーグほかすべてのスポーツにおいて、プロ野球と同様の税優遇がスポンサー企業に認められることが、国税庁によって承認されました。
より専門的な内容を交えた詳細は、こちらの記事でまとめられていますので、関心のある方はお読みください。
→国税庁が「税優遇」新解釈示したJリーグ専務理事のスゴ腕。歴史的回答の全貌を解説する
藤沢は、木村専務理事の政策提言に対してアドバイスやサポートを行う形で貢献しました。現場が何を求めていて、国は何をすればよいのか。国と現場をつなげ、その問いと答えを導き出すのが政策提言の意味と効果です。これまで現場と行政をつないできた非営利セクターの一員として、スポーツ界においてもその役割を担い、結果を残せたことは、今後の非営利セクターの役割を考える上でも貴重な成果となりました。
非常事態のなかで創る、新たな「つなぐ」取組み
もともとJリーグには「社会連携」というコンセプトー地域社会とどう連携するかーが大きな柱の1つとしてあり、藤沢もこの社会連携を担当する理事の1人として声がかかったという経緯があります。
試合のできない状況がつづく非常事態のなか、藤沢も社会連携担当理事の1人として、Jリーグと各クラブ、ファンの方をつなぐ取組みにも関わっています。
それが「Jリーグ非公式勝手未来ミーティング」。他の理事(藤沢久美理事)のリーダーシップのもとで5月から実施しているものですが、試合が再開するまでの間、zoomを使った週1〜2回のウェビナー形式で、様々なテーマを議論してます。たとえば、選手のセカンドキャリア、無観客試合でのテクノロジーの活用、各クラブ周辺の関連産業(飲食、観光など)のサポート、社会連携をテーマとして今こそ果たす役割について、など。
画像出典 https://twitter.com/j_future1/status/1265961772202070018?s=20
おかげで、これまでは拾えなかったような現場の様々な声を拾うことができています。藤沢はそれらの提言の取りまとめ役として、Jリーグという公的で大きな組織が、それらの声を生かした取組みを推進していけるよう、内容をまとめているところです。
集め、まとめ、届けることが社会をよくする一手に
様々な行政の制度を集め、まとめ、現場に届ける。あるいは、現場の声を集め、まとめ、行政や公的機関に届ける。
異なる立場がつながることで新しい価値が生まれ、社会課題が解決するための推進役として、こういったコーディネーター的な役割が重要であるということは以前から発信してきました。しかし、今回の新型コロナ禍で社会が大きく動くなか、より大きな枠組みの改革に向けて、その役割の必要性と可能性が、ますます大きくなっているのを感じています。
次回は、新型コロナウイルスの影響に対応した「こども宅食」臨時便を取り上げ、その背景や意義などを紹介していきます。